意外な音でも!騒音が障害児や認知症患者の心身機能に及ぼす影響について

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1. はじめに

騒音は一般成人でも睡眠障害や心血管リスクを招くストレッサーですが、発達障害や知的障害をもつ子ども(以下、障害児)認知症患者は感覚処理の特性から音刺激に対してとりわけ敏感で、影響を受けやすいことが国内外の研究で示されています[4][9]。本レポートでは騒音が行動、感情、認知機能、睡眠、生理反応に与える影響を整理し、音の種類による差異と対策を概観します。


2. 行動面への影響

2‑1 障害児

  • 日常的な生活音(掃除機、トイレの流水音など)でも恐怖・パニックを起こし、逃避や自己刺激行動を示す[25]。

  • 騒音感受性が高い子どもほど攻撃性・多動など外在化行動が増える[33]。

2‑2 認知症患者

  • 介護施設内で騒音レベルが高い時間帯(とくに午後)にアジテーション発生率が上昇[42]。

  • 環境騒音が徘徊・興奮・混乱行動を誘発しやすい[8][9]。


3. 感情面への影響

3‑1 障害児

  • 騒音が不安・恐怖を増大させ、情緒不安定や引きこもり傾向を助長[25][33]。

3‑2 認知症患者

  • 小さな物音でも過大に聞こえ、不安・苛立ちを誘発[9]。

  • 高い環境騒音曝露は認知症発症リスク自体も上昇させる可能性[20]。


4. 認知機能への影響

4‑1 障害児

  • 航空機騒音下の学童は読解力・記憶力の発達が遅延[18]。

  • 背景騒音は注意を奪い学習効率を低下させるが、ADHD児ではホワイトノイズが集中を助ける場合も[28]。

4‑2 認知症患者

  • “カクテルパーティ効果” が障害され、騒がしい環境で会話理解困難に[9]。

  • 長期的な騒音曝露は認知機能低下と関連[20]。


5. 睡眠への影響

5‑1 障害児

  • 自閉症児の半数以上に睡眠障害。夜間30 dB(A) 超の生活騒音は入眠困難・中途覚醒を助長[36][37][44]。

5‑2 認知症患者

  • 断片的睡眠 + 夕暮れ症候群でもともと不眠傾向。夜間騒音は覚醒・興奮行動を増幅[8][9]。


6. 生理的・神経学的影響

  • 自閉症児は突発音で皮膚電気反応や心拍数が過大[4][25]。

  • 認知症患者でも騒音により心拍・血圧・コルチゾールが上昇し、ストレス反応が増強[21]。


7. 騒音の種類による影響

音の特性 主な影響
突発的・大音量 驚愕反射、パニック、転倒リスク ドアの閉まる音、花火、雷
断続的・大きな変動 注意散漫、認知低下 航空機通過音
持続的バックグラウンド 慢性ストレス、睡眠障害 道路交通騒音、機械音
単調ホワイトノイズ マスキング効果、集中向上例も ホワイト/ピンクノイズ
自然音・音楽 リラックス、BPSD軽減 鳥のさえずり、好みの音楽

8. 対策・環境調整

  1. 建築的防音: 二重窓、吸音材、静音ドアで騒音そのものを低減。[41]

  2. サウンドスケープ設計: 録音された自然音や個人の好きな音楽を時間帯に応じて流す。MoSART+ 介入でBPSDが有意減[35][40]。

  3. 個別支援ツール: イヤーマフ、ノイズキャンセリングヘッドホン、クールダウンスペースの確保[15]。

  4. 心理的アプローチ: 音恐怖に対する系統的脱感作・認知行動療法[31]。


9. まとめ

  • 障害児・認知症患者は騒音に対して特に脆弱で、行動・情緒・認知・睡眠・生理反応に負の影響を受けやすい。

  • 音環境の最適化と個別感覚支援により、パニックやアジテーションを軽減しQOLを高められるエビデンスが増えている。

  • 防音とサウンドスケープの両面から音を「管理」・「活用」することが重要。


10. 影響が現れやすい騒音レベル(目安)

効果の種類 主対象 指標/条件 影響が報告される目安 dB(A) 代表的出典
睡眠の質低下 子ども・高齢者 WHO Lnight,outside ≥ 40(LOAEL)、≥ 55 で心血管リスク増 WHO Night Noise Guidelines for Europe, 2009
室内睡眠推奨 全般 室内 LAeq,8h ≤ 30 が望ましい WHO Guidelines for Community Noise, 1999
教室学習低下 学童 校内 LAeq ≥ 35 で注意散漫、≥ 50–55 で読解力低下 WHO Environmental Noise Guidelines 2018; Stansfeld et al., 2005
アジテーション増 認知症高齢者 施設平均 LAeq 55–60 以上 出貝・勝野 2007; Janus et al., 2021
徘徊リスク 認知症高齢者 騒音変動幅↑ 平均 55–65 付近で有意 Janus et al., 2022 (MoSART+)
情動・生理反応 障害児 短時間トーン 50–60 で交感神経賦活 Khalfa et al., 2004
不快閾(LDL) 自閉症児 Loudness Discomfort Level < 80 dB HL で 63% が不快 Khalfa et al., 2004
スタートル反射増大 自閉症児 Startle 試験 65–85 で定型発達児より過大反応 Kohl et al., 2014
BPSD予防目標 認知症施設 室内平均 < 50 推奨(音環境介入施設) Janus et al., 2022
聴覚損失リスク 全般 職業・余暇 LAeq,8h ≥ 85 で難聴リスク増 WHO Environmental Noise Guidelines 2018

注: LAeq は A 特性等価騒音レベル、Lnight,outside は 22:00–06:00 の外部年平均値を示す。

dB(A)  

体感 & 例

0

 

聴覚の理論的最小阈値(無響室での可聴下限)

10

 

呼吸音、落葉が触れ合う音

20

 

ささやき声が遠くで聞こえる程度、深夜の静かな森

30

 

静かな寝室・図書館、時計の秒針(1 m 距離)

40

 

郊外の静かな住宅地の昼間、PC のファン音

50

 

エアコンの室外機(数 m)、静かな会話の背景雑音

60

 

1 m 距離の普通の会話、静かな車内(走行中)

70

 

掃除機、街中の騒音、保育園の室内遊び

80

 

騒がしいレストラン、幹線道路沿い歩道、ピアノの forte

90

 

電車通過時(車内約 90 dB)、草刈り機・犬の吠え声 (1 m)

100

 

電動ドリル(1 m)、地下鉄プラットフォーム

110

 

ロックコンサート最前列、カラオケ大音量スピーカー

120

 

救急車サイレン至近(1 m)、ジェット機離陸 100 m

130

 

リベット打ち工具、雷鳴の直近――痛覚(不快)限界付近

140

 

ジェット機エンジン 30 m、即時に聴覚損傷の恐れ

 

健常者への影響レベルも記載しておきます

SPL帯

一般的健康影響*

WHO/環境省の推奨

≤ 30 dB

多くの人で入眠に支障なし

夜間室内「望ましい限度」

40 dB 前後

子どもの読解力低下が出始める

学校教室の推奨上限 35 dB

55 dB 以上

心血管リスク増、認知症施設でアジテーション増

屋外夜間 55 dB 以上は衛生影響 (WHO)

70 dB 以上

長時間で難聴リスク上昇

8 時間平均 70 dB を連日超えないよう管理

85 dB 以上

職業性難聴の管理基準、耳栓必須

労働安全衛生法:85 dB で保護具 推奨

120 dB 以上

即時の痛み、瞬時曝露でも聴覚損傷

最後に

”細菌学の父”と呼ばれる「ロベルト・コッホ」はこのような言葉を残しました。

「将来の人類は、コレラやぺストと戦ったように、騒音と戦うことになるだろう」
細菌学という騒音と関係の薄そうな分野の博士にも危機感を抱かせる「騒音」

騒音は「うるさいか、静かか」だけでなく、誰にとってどのくらい影響があるかが肝心です。
障害児や認知症の方には 30 dB でも大きすぎる場合がありますし、
逆に仕事現場では 85 dB でも「管理値ギリギリ」というケースもあります。
だからこそ、数字で把握できる騒音計は私たちの“耳”を客観化してくれる必須ツール。
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もっと正確に測定したい場合はISO 61672 に準拠した物もありますが、価格は10万円以上。
必要に応じて自分の目的に合った一台を選び、測って・比べて・対策する流れをぜひ実践してみてください。

この記事が、みなさんの暮らしや現場の「音環境アップデート」のきっかけになれば幸いです。ご意見・ご感想、そして「こんな環境を測ってみた」「他機種と比較してみた」という体験談があれば、ぜひコメント欄でシェアしてくださいね!

 

 

参考文献(全文)

[4] Marina Sarris. What Do We Know About Noise Sensitivity in Autism? SPARK for Autism. March 6 2023. https://sparkforautism.org/discover_article/noise-sensitivity/

[8] Janus, S. I., Lee, K., Scherder, E. J., et al. “Sounds in nursing homes and their effect on health in dementia: a systematic review.” International Psychogeriatrics 33 (3): 323‑334, 2021.

[9] Town Square Perry Hall. Dementia and Noise Sensitivity. Blog article. January 15 2024. https://townsquareperryhall.com/dementia-noise-sensitivity/

[15] May Institute. Helping Individuals with Special Needs Manage Sensory Overload. (undated). https://www.mayinstitute.org/behavioral-health/resources/articles/helping-individuals-with-special-needs-manage-sensory-overload/

[18] Stansfeld, S. A., Berglund, B., Clark, C., et al. “Aircraft and road traffic noise and children’s cognition and health: a cross‑national study.” The Lancet 365 (9475): 1942‑1949, 2005.

[20] Davies, K., Sloan, R., Heaney, A., et al. “Long‑term community noise exposure in relation to dementia, cognition, and cognitive decline in older adults.” Alzheimer’s & Dementia 17 (2): 198‑206, 2021.

[21] Basner, M., Babisch, W., Davis, A., et al. “Auditory and non‑auditory effects of noise on health.” The Lancet383 (9925): 1325‑1332, 2014.

[25] Kohl, S., Nürnberger, N., Riemann, R., et al. “Prepulse inhibition of the acoustic startle reflex in high functioning autism spectrum disorders.” Journal of Autism and Developmental Disorders 44 (2): 384‑394, 2014.

[27] Canevelli, M., Adali, N., Tognoni, G., et al. “Agitation in dementia: prevention and treatment strategies.” Frontiers in Psychiatry 12: 720609, 2021.

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[28] Oregon Health & Science University News. “White, pink noise improve focus for children with ADHD, study shows.” Press release, May 14 2024. https://news.ohsu.edu/2024/05/14/white-pink-noise-improve-focus-adhd

[31] Fodstad, J. C., Matson, J. L., Hess, J., “Assessment and treatment of noise hypersensitivity in ASD: a case study.” Journal of Autism and Developmental Disorders 51 (4): 1353‑1362, 2021.

[33] Lee, E.‑Y., Kim, J.‑H., Hong, S.‑B. “Negative impact of noise and noise sensitivity on mental health in childhood.” Psychiatry Investigation 15 (10): 1113‑1120, 2018.

[35] Janus, S. I., Scherder, E. J. A., Barakova, E., “Soundscape awareness intervention reduced neuropsychiatric symptoms in nursing home residents with dementia: a cluster‑randomized trial.” Journal of the American Medical Directors Association 23 (4): 357‑364, 2022.

[36] World Health Organization Regional Office for Europe. Night Noise Guidelines for Europe. Copenhagen: WHO, 2009.

[37] World Health Organization. Guidelines for Community Noise. Geneva: WHO, 2000.

[40] KITE‑UHN. “Birdsong, crickets and rainfall sounds help dementia patients, study finds.” University Health Network News Release, August 21 2024. https://uhn.ca/news/

[41] Ahn, M., Kim, J., “Reducing nighttime noise on medical‑surgical units: a multimodal quality improvement project.” Journal of Clinical Nursing 30 (2‑3): 241‑250, 2021.

[42] 出貝裕子・勝野とわ子. 「介護老人保健施設における認知症高齢者のagitationと騒音レベルの関連」『老年看護学会誌』12 (1): 19‑27, 2007.

[44] SPARK for Autism. “Project seeks to unlock the mysteries of sleep for autistic youth.” September 4 2023. https://sparkforautism.org/news/sleep-autistic-youth/

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